「カフェ」はおしゃれな雰囲気、「喫茶店」はレトロな落ち着き。私たちがなんとなく使い分けているこの言葉ですが、かつては法律によって明確な「できること」の差がありました。
しかし、2021年の法改正を経て、その境界線は大きく変化しています。今回は、知っているようで知らない「カフェ・喫茶店・純喫茶」の違いを紐解きます。
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カフェと喫茶店の違い
「カフェ」と「喫茶店」、実はこれまで、保健所から取得する「営業許可」の種類によって明確な違いがありました。
しかし、2021年6月に施行された改正食品衛生法により、その境界線は大きく塗り替えられています。これからお店を始める人や、コーヒー好きなら知っておきたい「新常識」を整理してみましょう。
営業許可が「飲食店営業」に一本化
以前は、お酒を出したり本格的な調理ができる飲食店営業(カフェなど)と、お酒は出せず、単純な調理しかできない喫茶店営業(喫茶店など)の2つに分かれていました。
しかし現在、この2つの区分は「飲食店営業」として一本化されました。
つまり、現在の法律上では、どちらを名乗るにしても同じ許可が必要であり、「喫茶店だからお酒を出してはいけない」「カフェだから許可が難しい」といった法的な差はなくなっています。
「名前」は自由なブランディングの時代へ
営業許可の区別がなくなった今、お店を「カフェ」と呼ぶか「喫茶店」と呼ぶかは、店主がどのような雰囲気を提供したいかという「コンセプト」の差になっています。
カフェ
比較的明るい内装で、多国籍なフードメニューや、ラテアートなどのアレンジドリンクを強みにする「モダン」なイメージ。
喫茶店
重厚感のあるカウンター、ネルドリップのコーヒー、ナポリタンなどの「定番メニュー」を大切にする「レトロ」なイメージ。
かつては「お酒を出したいから飲食店営業を取ってカフェと名乗る」といった戦略的な理由がありましたが、現在は純粋に「お客様にどんな体験をしてほしいか」で名前が選ばれています。
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喫茶店と純喫茶の違いについて

「喫茶店」と「純喫茶」。一見すると、純喫茶の方がよりレトロでこだわりが強そうなイメージがありますが、なぜわざわざ「純」という言葉が付いているのでしょうか?
その理由は、大正から昭和初期にかけての「カフェ」という言葉の使われ方にあります。
夜の社交場と区別するための「純」

当時の「カフェ(カフェー)」は、現代のようなコーヒーショップではなく、お酒を提供し、華やかな衣装の女性が接客をする「夜の社交場(現在のキャバレーやスナックに近い業態)」を指す言葉でした。
そんな時代に、真摯にコーヒーを追求していた店主たちは困ってしまいます。「自分たちのお店は、あのような夜の社交場とは違う、純粋にコーヒーやお茶を楽しむ場所なんだ」ということを客層に明確に伝える必要があったのです。
そこで、「純粋に喫茶を楽しむ店」という意味を込めて、「純喫茶」という呼び方が誕生しました。
現代における「純喫茶」の立ち位置

現在では、かつての「カフェー」のような業態を喫茶店と混同することはなくなりました。そのため、実務的な区別として「純喫茶」という言葉を使う必要性は薄れています。
しかし、あえて今も「純喫茶」という看板を掲げているお店には、以下のような伝統的なスタイルを大切にする美学が共通しています。
- お酒を出さない: 1日を通して、コーヒーや軽食のみを提供。
- こだわりの抽出: ネルドリップやサイフォンなど、一杯ずつ丁寧に淹れる文化。
- 独自の空間作り: ベルベットの椅子やステンドグラスなど、落ち着いた時間の流れを演出。
「純喫茶」という言葉は、今では「古き良き日本のコーヒー文化を守り続ける店」という、一種のブランド称号のような役割を果たしているのです。
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なぜ「コーヒー店」ではなく「喫茶店」と呼ぶのか?

「喫茶店」という言葉をよく見ると、どこにも「コーヒー」という文字が入っていないことに気づきます。
「茶店(さてん)」「茶房(さぼう)」「茶寮(さりょう)」といった別称もすべて「お茶」がベースです。
これには、日本が外来文化であるコーヒーを、いかに自分たちの文化として融合させてきたかという歴史が隠されています。
鎌倉時代から続く「喫茶」の歴史
「喫茶(きっさ)」という言葉が日本に根付いたのは、鎌倉時代のことです。
禅僧・栄西が中国からお茶を持ち帰り、養生(健康法)としてお茶を飲む習慣を広めた「喫茶養生記」がその始まりです。
当時は文字通り「お茶を飲むこと」を指していましたが、長い年月をかけて、この言葉は「喉を潤しながら、一息ついてくつろぐ」という行為そのものを指す言葉へと意味を広げていきました。
日本独自の進化:カフェを「喫茶店」と訳した知恵
明治時代になり、西洋からコーヒー文化が本格的に流入してきました。
世界的には、フランス流の「カフェ」やイギリス・アメリカ流の「コーヒーハウス」という呼び名が一般的でしたが、日本人はこれをあえて「喫茶店」と呼びました。
これは、単に飲み物を提供する場所としてだけでなく、日本人が古くから大切にしてきた「お茶を飲んで一服する」という精神的な豊かさを、コーヒーという新しい飲み物にも投影させたからです。
欧米の「カフェ」が賑やかな交流の場であるのに対し、日本の「喫茶店」はどこか静謐で、自分自身と向き合う空間としての側面が強いのは、この「喫茶」という言葉のルーツが影響しているのかもしれません。
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日本初の喫茶店「可否茶館」が目指したもの
時代を先取りしすぎた理想郷

ちなみに余談ですが、日本初の喫茶店は「可否茶館」というお店であり東京の上野で開業されました。
それまではごく一部の人にしか飲まれていなかったコーヒーを一般人でも飲めるようにした先進的なお店でした。
もともとは外務省で働いていた鄭永慶(ていえいけい)によって経営されており、トランプやビリヤードなどの遊び道具や、新聞や書籍、化粧室やシャワー室などもあったそうです。現代のTSUTAYAと提携しているスターバックスのような感じに近いかもしれません。
海外のカフェがそうであったように「日本でもコーヒーを飲みながら人が交流して文化知識を高めたい」という想いから、日本初の喫茶店である可否茶館は始まりました。
志半ばで幕を閉じた「理想の喫茶店」
しかし、当時の日本でコーヒー1杯の値段は、かけそば1杯の数倍という高級品でした。
鄭の掲げた「一般の人にも広く開かれた知的な交流の場」という理想は、当時の経済状況や文化的な壁に阻まれ、わずか4年で閉店という苦い結果に終わりました。
しかし、彼が蒔いた「コーヒーを飲みながら文化を育む」という種は、その後の日本の喫茶店・カフェ文化の中に脈々と受け継がれています。
まとめ
2021年の法改正により、現在では「カフェ」と「喫茶店」に法的な業務内容の差はほとんどなくなりました。
今、私たちがお店を選ぶ基準は、お酒が出るかどうかといったスペックではなく、「その場所でどのような時間を過ごしたいか」という感性の部分にあります。
呼び名は違えど、明治の先人が夢見た「一杯のコーヒーがもたらす癒しと文化」という本質は変わりません。
次にあなたが扉を開けるその一軒には、どんな歴史とこだわりが詰まっているでしょうか。そんな背景を思い浮かべながら、至福の一杯を楽しんでみてください。
