「アイスコーヒーは日本独自の飲み物で、海外には存在しない」
ネット上でまことしやかに囁かれていますが、これは「半分正解で、半分間違い」です。
私自身、アメリカに住んでいた頃は普通にアイスコーヒーを注文して飲んでいました。しかし、2000年代の初め頃まで、欧米のカフェ文化においてアイスコーヒーは完全に『異端児』でした。
今回は、知っているようで知らない「アイスコーヒーと海外の意外な関係」について、私の実体験を交えながら深掘りしていきたいと思います。

ブログ管理人:山口 誠一郎
コーヒーの専門家としてTV出演。文藝春秋(文春オンライン)コラム掲載。1,000種以上のコーヒー豆をレビュー。イタリア「Caffè Arena Roma」元バリスタ。
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2000年代初頭まで、海外のカフェに「アイスコーヒー」は存在しなかった?
今でこそ世界中で飲まれているアイスコーヒーですが、実は2000年代の初め頃まで、欧米の多くの国では「ブラックのアイスコーヒー」という概念自体がほとんど浸透していませんでした。
もし当時の海外のカフェで、夏の暑い日に「アイスコーヒーをください」と注文したら、一体どうなっていたでしょうか?
店員を困惑させた「冷たいコーヒー」の注文
当時の欧米(特にヨーロッパ)のバリスタにとって、コーヒーとは「熱い状態で香りを楽しむもの」。
そこに冷たいコーヒーの注文が入ると、店員は「何を言っているんだ?」という顔をしつつ、仕方なく熱いコーヒーに氷をドバドバと入れただけのものを出していました。
当然、氷がすぐに溶けて薄まり、温度も「ぬるい」という、お世辞にも美味しいとは言えない飲み物になってしまいます。
これでは人気が出るはずもありません。「コーヒーを冷やすなんて、香りを殺す邪道な行為だ」という職人気質な考え方が、フランスなどの伝統的なカフェでは今も根強く残っているのです。
「アイスコーヒー」を頼むとデザートが出てくる?

また、もう一つの落とし穴が「名前の定義」です。
海外の一部(オーストラリア、ドイツ、オーストリアなど)では、「Ice Coffee」と頼むと、コーヒーにバニラアイスやホイップクリームがたっぷり乗った「パフェのような飲み物」が出てくることがあります。
これはこれで美味しいのですが、日本のスッキリしたブラックを想像していた人にとっては、かなりの衝撃(と甘さ)です。
注文のコツは「d」を付けること
現在、日本のようなブラックのアイスコーヒーを確実に注文したいなら、単なる「Ice coffee」ではなく、「Iced coffee(アイスド・コーヒー)」と頼むのが世界標準のコツです。
「d」を付けて受動態にすることで、「(氷などで)冷やされたコーヒー」という意味になり、意図しないデザートが出てくるリスクを減らすことができます。
なぜ今、世界中で「冷たいコーヒー」が主役なのか?

2000年代初頭までは「概念すらなかった」と言っても過言ではない海外のアイスコーヒー市場ですが、現在はかなりの変貌を遂げています。
今やアイスコーヒーは、一時的なブームを通り越して「主要なライフスタイル」へと進化しました。
世界的チェーンが変えた「常識」
この変化の最大の功労者は、スターバックス、マクドナルド、ネスカフェといった世界的ブランドです。
彼らが「アイスコーヒー」や「フラペチーノ」といった冷たいドリンクを世界共通のメニューとして展開したことで、それまで熱いコーヒーしか知らなかった国々の人々(特に若者層)に、冷たくて美味しいコーヒーという選択肢を浸透させました。
実際、現在のアメリカでは若者の約4割近くがアイスコーヒーを日常的に好んで飲むというデータもあり、かつて「邪道」とされていた文化は、わずか20年足らずで「クールな定番」へと塗り替えられたのです。
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「田舎のカフェ」では今も残る、昔ながらの対応
私が2016年にアメリカのデトロイトからニューヨークまで車で横断した際、ペンシルベニア州の山間部にある小さな田舎のカフェに立ち寄りました。
夏の猛暑の中、眠気覚ましにアイスコーヒーを頼んだのですが……出てきたのは、案の定「熱いコーヒーに氷をぶち込んだだけの、ぬるくて薄い一杯」でした。
当時は「ハズレの店だな」くらいに思っていましたが、今振り返れば、そこはまだ「アイスコーヒーの正しい淹れ方」が浸透していない、古き良き(?)時代のアメリカが残っていた場所だったのでしょう。
アイスコーヒーの起源は日本という事実

なぜ日本では当たり前のアイスコーヒーが、海外では長い間「未知の飲み物」だったのでしょうか。
その答えはシンプルで、アイスコーヒーの原型は、明治時代の日本で生まれたものだからです。
井戸水で冷やした「氷コーヒー」の誕生
アイスコーヒーの歴史は明治時代まで遡ります。当時は「氷コーヒー」と呼ばれ、瓶に入れた熱いコーヒーを井戸水や川に浸して冷やすという方法で作られていました。
なぜ日本人にそんな発想ができたのか。そこには日本独自の食文化が深く関わっています。
古来、日本ではスイカやキュウリなどの野菜を井戸水で冷やして食べる習慣がありました。この「冷やして涼を取る」というライフスタイルが、自然とコーヒーにも応用されたのです。
一方で、当時の欧米には「一度沸騰させた熱い飲み物をわざわざ冷やす」という発想が乏しく、むしろ「生温い飲み物は衛生的に不安」という食習慣もありました。
この文化の差が、アイスコーヒーの普及に大きな時間差を生んだのです。
世界が驚いた「ジャパニーズ・スタイル」

大正から昭和にかけて、日本のアイスコーヒーは喫茶店文化とともに独自の進化を遂げました。そして今、この日本の技術が世界中から熱い視線を浴びています。
近年、アメリカの「ブルーボトルコーヒー」などのサードウェーブ系カフェが、お湯で濃く淹れたコーヒーを一気に氷で冷やす手法を「Japanese Style Iced Coffee(ジャパニーズ・スタイル・アイスドコーヒー)」として紹介しました。
かつては「アメリカの背中を追っている」と思われていた日本のコーヒー文化ですが、アイスコーヒーに関しては、日本こそが「100年以上先を行くパイオニア」だったのです。
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まとめ
アイスコーヒーが日本発祥の文化であり、今や「ジャパニーズ・スタイル」として世界を席巻しているという事実は、コーヒー好きとしてどこか誇らしい気持ちになりますよね。
ちなみに、アイスコーヒーを美味しく淹れるには、深煎り(フレンチ〜イタリアンロースト)」を選ぶことをおすすめします。
実際に飲んで美味しかったコーヒー豆はこちらで紹介しています。
